「もしもひとめぼれの瞬間に、香りがしたのなら」
突然ですが、ひとめぼれ、したことありますか?
今回は、いしいしんじさん作の「トリツカレ男」のワンシーン、
トリツカレ男ジュゼッペが、ペチカという女の子に出会い、
恋にトリツカレたシーンを調香してみました。
はまる・おちる、ではなく、恋にトリツカレる。
それはまるで事故のように、天気のいい秋の月曜日の午後、
おおぜいの人が散歩を楽しんでいる公園で、ジュゼッペにやってきたのです。
ひとめぼれの香りがあるなら、それはきっと、甘くなんかないと思うのです。
その瞬間の香りは、ただただ、色鮮やかなスローモーションの中、
息の止まるような、よくわからない衝撃をうけとめるので精一杯で、
追い立てられるようにも感じるほどの、勢いのある香りのような気がします。
スパイシーで熱のあるブラックペッパーやカルダモン、
でも、一方で明るい強い風が吹きぬけるような、レモンとペパーミント。
目の前が一気に開けるような香りです。
三段跳び、探偵ごっこ、サングラス集め…ジュゼッペのトリツカレるものごとは、
役に立たないことも多いけれど、その見事なまでに深いトリツカレっぷりを、
あきっぽいわたしでも、うらやましく思うのです。
大人になっても、(恋に限らず)ひとめぼれというトリツカレ事故は、突然やってくる。
こころの高鳴りに正直に、そして思いをさらけ出して本気になるのは、
なかなかむずかしいことだけれど、ジュゼッペのように、いつだって
からだまるごと本気でトリツカレていきたいな。
「そりゃもちろん、だいたいが時間のむだ、物笑いのたね、
役立たずのごみでおわっちまうだろうけど、でも、きみが本気をつづけるなら、
いずれなにかちょっとしたことで、むくわれることはあるんだと思う」
(P29ハツカネズミのことばより)
Date:2016.2.14
Title:「ひとめぼれの瞬間 (I had a crush on her.)」
File:002/idea from〔 トリツカレ男 / いしいしんじ 〕
Blend:
レモン(明るく勢いよく、目の前が開けるイメージ)
ペパーミント(頭や心に強い風が吹く。覚醒するような香り)
レッドマートル(エデンの園とその香りの象徴とされる植物)
ベイローレル(熱を感じる乾いた香り。平和と勝者のハーブ)
カルダモン(中世より、媚薬として使用されてきたスパイス)
ブラックペッパー(心と体に熱を与えるスパイス)